2024年10月19日(土)16:00(15:15開場)
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2024年10月22日(火)19:00(18:15開場)
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シンガポール交響楽団 指揮:ハンス・グラーフ ピアノ:エレーヌ・グリモー
2024年10月19日(土)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
ドイツの作曲家で、初期ロマン派の代表格であるフェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)の音楽は、浮き立つようなメロディと透明で神聖な響きを持っています。幼い頃から天才と称賛された彼の音楽は、明朗で華があります。メンデルスゾーン家は裕福な銀行家であり、姉のファニーとともに何不自由なく育ちましたが、ユダヤ人の家系であったことが当時のヨーロッパでは理不尽な困難を招きました。メンデルスゾーンも父の決断でキリスト教に改宗し、社会的地位を確立できたものの、根深い差別にはずっと苦しめられていました。
この《「真夏の夜の夢」序曲》はシェイクスピアの同名の戯曲に着想を得て1826年(17歳)に作曲されました。メンデルスゾーンが自発的に書いたものですが、ピアノ連弾に書き換えて、姉のファニーと妖精たちの世界を楽しみました。この曲に大いに感銘を受けたプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世が作曲を命じて、戯曲の付随音楽が生まれることになりました。なお、シェイクスピアの戯曲の題名は日本では坪内逍遥などの訳で「真夏の夜の夢」と訳されてきました。現題にある“Midsummer”を「真夏」としたのですが、本来の物語の舞台となる季節は「夏至」の時期です。
「序曲」はみずみずしい響きにあふれた音楽です。冒頭で木管楽器とホルンによって示される4つの和音の連なりが物語に誘います。そこに続くヴァイオリンの細かな動きは「何かが始まる予感」を感じさせ、さら2回の管楽器の響きを挟みつつ、音楽は躍動感を爆発させて前に進みます。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
シンガポール交響楽団 指揮:ハンス・グラーフ ピアノ:エレーヌ・グリモー
2024年10月19日(土) 会場:京都コンサートホール大ホール
フランス近代の作曲家であるモーリス・ラヴェル(1875-1937)の音楽には、ガラス細工のような繊細さと、これ以外にはあり得ないと思わせる完成度の高さが共通しています。ストラヴィンスキーはラヴェルのことを「スイスの時計技師」と称しましたが、輪郭のはっきりとした音の線が細やかに絡み合うことで、ラヴェル特有の冷たさを持つ音楽が奏でられます。
ラヴェルには2つのピアノ協奏曲があります。この《ト長調》と、もうひとつは《左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調》です。どちらも晩年の作品で、ほぼ同時期に構想が進められました。ラヴェル自身の言い方で「右手だけのためではないピアノ協奏曲」となる《ピアノ協奏曲 ト長調》は、1929年から31年(56歳)にかけて作曲されました。1932年1月14日にパリのサル・プレイエルで初演。作曲者指揮のラムルー管弦楽団の演奏で、ピアニストはラヴェルの音楽のよき理解者であったマルグリット・ロンでした。すでにラヴェルはフランス音楽界の大御所でしたが、健康状態は悪化し始めていました。
この協奏曲は3つの楽章で構成されます。〈第1楽章〉は印象的なムチの一撃を合図に、賑やかな音楽がまるでおもちゃ箱をひっくり返したように飛び出します。一方で、ジャズの影響も強く、ブルーノートの独特な響きが自在に表情を変えています。〈第2楽章〉では、美しい音楽がひたすらに溢れ出します。この時代のフランスならでは、そしてラヴェルにしか生み出せなかった音楽です。〈第3楽章〉はひたすらに突き進み、まさに名人芸(ヴィルトゥオーソ)が満載の鮮やかな音楽が繰り広げられます。どの楽器も力の限りを尽くし、爽快感が心地よいフィナーレです。日本の映画「ゴジラ」のテーマに似たフレーズが登場するのはご愛嬌で、この映画音楽を手がけた伊福部昭がラヴェルを敬愛していたことから生まれた無意識のオマージュといえるでしょう。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
シンガポール交響楽団 指揮:ハンス・グラーフ ピアノ:エレーヌ・グリモー
2024年10月19日(土)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
「シンガポールの光」は、2021年のシンガポール建国56周年記念コンサートのために、シンガポール交響楽団によって委嘱された。同年、同国のリー・コンチャン自然史博物館の研究者たちが新種のホタルを発見。この1909年以来初の大発見も合わせて祝う作品である。
「ルシオラ・シンガプーラ(シンガポール・ホタル)」は、シンガポール最後の淡水湿地林であるニースーン湿地林に生息している。遺伝学的にも形態学的にも他の種とは異なっているがゆえの、相応しい命名だ。黄金色に輝くその姿は美しい。一度目にすれば忘れられない。陽琴(中国のダルシマー)は私が受けた音楽教育の中でも特別な楽器だが、その色彩を採択することで、この不思議な光りを放つ生物の、神秘的な魅力と生き生きとした生命力が音楽から想起されるよう努めた。長い旋律線と斬新なハーモニーが連携し、中国の音楽の所作も随所に聞こえる。音楽文化と科学の融和を越え、シンガポール固有のあらゆるものを祝福したいという願望を表現している。この作品が、絶え間ない近代化と気候変動に直面する中で、絶滅危惧種とその主要な生息地の保護を促す、時宜を得た警鐘となることを願っている。
作曲者、コー・チェンジンによるプログラムノート
シンガポール交響楽団 指揮:ハンス・グラーフ ピアノ:エレーヌ・グリモー
2024年10月19日(土)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
おそらく、オーケストラで演奏される交響曲の中で最も有名な作品が、このルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の「運命交響曲」と日本で呼ばれている《交響曲第5番》でしょう。ただし、タイトルの由来となった「このように運命は扉を叩く」とベートーヴェンが語ったというエピソードは、作り話だと言われています。冒頭に登場する「運命の動機」、"ジャジャジャジャーン"と表現されるテーマは誰もが知るこの曲の象徴です。ヨーロッパでは"ta-ta-ta-taa"と表現されるこの動機は、作品全体の基礎となっており、この4つの音だけで全曲が組み立てられていると言っても過言ではありません。
《交響曲第5番》のダイナミックでたたみかけるような音楽は、最もベートーヴェンらしいとも言えるでしょう。1807年に着手され、1808年(彼が38歳のとき)の早い時期に完成しました。この年の12月22日、同じ演奏会で《第6番「田園」》とともに初演されています。当時、ベートーヴェンは故郷ボンからウィーンに移り住み、充実した活動を展開していました。
この交響曲は4つの楽章で構成されます。〈第1楽章〉では「運命の動機」の4音が何度も繰り返され、がっしりとした建築物のような音楽が構築されます。比較的穏やかな〈第2楽章〉でも、巧妙に配置された「運命の動機」が絶妙な効果を発揮し、変奏曲が構成されています。〈第3楽章〉は不気味にうごめくように始まります。第4楽章への切れ目なく続く橋渡しの部分ではエネルギーが蓄えられ、〈第4楽章〉冒頭の爆発がクライマックスの始まりを告げます。全曲の頂点を最終楽章に持ってくるという構成は、ベートーヴェンの新しい試みですが、この《交響曲第5番》では圧倒的な効果を生み出し、輝かしいフィナーレが実現されています。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
京都市交響楽団 指揮:大友 直人 箏:LEO
2024年10月22日(火)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
伊福部昭(1914-2006)の音楽は生まれ故郷である北海道と不可分な関係にあります。釧路に生まれ十勝の音更町で育つ中に、この地住む開拓民の歌う民謡やアイヌの歌が、その後の創作の原点となったのです。その豊穣な独自の音楽は悠久の広がりを感じさせるオリジナリティがあふれるものです。伊福部は同世代の日本の作曲家同様に多数の映画音楽を手がけました。その数は300本以上とされます。その中でも代表作はやはり『ゴジラ』のための音楽ということになります。
《SF交響ファンタジー》は本日取り上げられる《第1番》を含む第3番までの3曲が、1983[昭和58]年8月5日に日比谷公会堂で開かれた「伊福部昭・SF特撮映画音楽の夕べ」で、汐澤安彦の指揮する東京交響楽団によって初演されました。当初、伊福部自身はこうした映画音楽をコンサートで取り上げることに難色を示したと言われますが、周囲の熱意に根負けした形で実現しました。
《SF交響ファンタジー第1番》は、〈ゴジラの動機〉に始まり、「接続部分(ブリッジ)」を経て、〈『ゴジラ』タイトルテーマ〉〈『キングコング対ゴジラ』タイトルテーマ〉〈『宇宙大戦争』愛のテーマ〉〈『フランケンシュタイン対地底怪獣』バラゴンの恐怖〉〈『三大怪獣 地球最大の決戦』ゴジラとラドンの戦い〉〈『宇宙大戦争』タイトルテーマ〉〈『怪獣総進撃』マーチ〉〈『宇宙大戦争』戦争シーンの音楽〉と緩急豊かに6つの映画から選ばれた個性豊かな曲が連なります。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
京都市交響楽団 指揮:大友 直人 箏:LEO
2024年10月22日(火)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
宮城道雄(1894-1965)は伝統的な箏曲の世界に西洋音楽の要素を取り入れ、「新日本音楽運動」と銘打って新しい日本の音楽を創造しました。邦楽の新分野を切り開いた開拓者です。《春の海》は1929[昭和4]年(35歳)に発表され、宮城の代表作となりました。箏と尺八がオリジナルの編成です。正月の音楽として定着しましたが、これは1930[昭和5]年の宮中歌会始のお題であった「海辺巌(かいへんのいわお)」にもとづいて、この年の1月2日に広島放送局からラジオで放送初演されたことによります。「瀬戸内海の島々がモデルであり、長閑な波の音や、船の艪(ろ)を漕ぐ音、鳥の声などを織り込んだ」と宮城は述べています。
この箏独奏とオーケストラのための編曲は1980[昭和55]年にNHKの委嘱で池辺晋一郎(1943 - )が手がけていて、森正の指揮と唯是震一の箏、NHK交響楽団により、1981[昭和56]年1月7日にNHKホールにて開催された「第26回N響ゴールデンポップス」で初演。このコンサートは、日本の音楽に基づく作品が特集されていて、外山雄三《管弦楽のためのラプソディー》や小山清茂《管弦楽のための木挽歌》ほかが演奏されています。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
京都市交響楽団 指揮:大友 直人 箏:LEO
2024年10月22日(火)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
2022年に京都の二条城を舞台に開催された、MBS『二条城音舞台』のために書き下ろした楽曲です。二条城といえば松の障壁画が有名ですが、「松」をいつの時代にも変わらない普遍性を象徴するもの、そして「風」を変わりゆくものとして、その対比を音楽で表現しています。初演の際には、田中泯さんの踊りと共に披露しました。
宮城道雄の《春の海》とほぼ同じ調弦による古典的な“箏らしい”フレーズの冒頭のセクションから、同じモチーフを展開させつつ跳躍の多いフレーズや変拍子を用いた“箏らしくない”中間部に移っていき、最後は最初に提示したテーマに戻る構成になっています。
僕は高校生の頃から作曲を独学で始めたのですが、実はこれまで作曲の際には“箏らしさ”を意識することはなく、自分自身が好きな音楽や普段の生活の中からインスピレーションを受けて作曲しており、古典的な要素というものはあえて遠ざけている面もありました。しかしながらこの「松風」は二条城という舞台での演奏ということもあり、古典的なモチーフや箏らしい響きというものを初めて意識して取り入れた楽曲です。自分自身が箏を通して学んできたもの、大切にするべき古典の精神や日本の音楽と向き合うきっかけになった曲だと感じています。
本日はこの原曲に、伊賀拓郎さんによるストリングスアレンジを加えたバージョンをお届けします。初演の地でもある京都で皆様に聴いていただけることを、心より嬉しく感じております。
今野玲央
京都市交響楽団 指揮:大友 直人 箏:LEO
2024年10月22日(火)ライブ収録 会場:京都コンサートホール大ホール
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)の4つある交響曲は、どれもが世界中のオーケストラで標準的なレパートリーとして繰り返し演奏されてきました。それぞれに異なる作風があり、いずれも名曲として広く認められています。
本日取り上げられる《第1番》は、1876年(43歳)の秋にウィーン近郊のバーデンバーデン、リヒテンタールで完成されました。同年11月4日、オットー・デッソフ指揮のカールスルーエ宮廷管弦楽団によって初演され、その後すぐにヨーロッパ各地で再演が繰り返され、多くの聴衆に受け入れられました。
この時、ブラームスはすでに十分なキャリアを築いていましたが、40歳を過ぎてようやく交響曲を完成させた背景には、理由がありました。偉大なベートーヴェンの9つの交響曲に対して、どのような音楽を書くべきかという問題が、この時代の作曲家たちにとって共通の課題だったのです。ブラームスは交響曲を書く構想を長年温めており、最初に着手したのは1855年と言われていますが、作業はすぐに中断されました。第1楽章の原型が書かれたのは1862年で、この時、ブラームスはピアノを弾いてクララ・シューマンに聴かせています。本格的に作曲が進んだのは、作品が完成した1876年になってからでした。
4つの楽章で構成されます。どのように曲を始めるのか、ブラームスは塾考した末に結論を出しました。冒頭の息の長いメロディが奏でられる中で打ち込まれるティンパニの音は、確かな存在感を持って作品が持つ唯一無二の顔になったのです。この〈第1楽章〉はがっちりとした構成に息が詰まるほど。積み重なる響きが屈強な表情を聴かせます。〈第2楽章〉は一転して柔らかで抒情的な音楽になりました。クラリネット、コンサートマスターによるヴァイオリン・ソロ、ホルンと主題となるメロディが協奏曲のように受け継がれます。〈第3楽章〉は実に牧歌的な音楽です。室内楽的なアンサンブルが親密に繰り広げられます。〈第4楽章〉はこれまでにないほどのドラマティックな音楽が生まれました。ブラームスの意気込みがひしひしと伝わってきます。悠然と流れるメロディが、抑え切れないほどの高揚感を携えて大団円のクライマックスを築き上げるのです。
小味渕彦之(音楽学,音楽評論)
1979年創立。定期演奏会に加え、シンガポールの若者のための音楽教育にも熱心に取り組む。2021年に英雑誌グラモフォンの「オーケストラ・オブ・ザ・イヤー」で第3位を獲得。その翌年にはBBCミュージックマガジンが発表する世界のベストオーケストラの一つにランクインした。3代目音楽監督にハンス・グラーフが就任。2014年に120回目を迎えたロンドンのBBCプロムスでデビューを果たし、英国の新聞ガーディアン紙とテレグラフ紙で絶賛された。2016年5月にはドレスデン音楽祭とプラハの春音楽祭に出演。24/25年シーズンは、アジア オーケストラウィーク京都公演の他、オーストラリアでの3都市公演を予定している。
公式サイト©Singapore Symphony and Aloysius Lim
オーストリア出身。2022年シンガポール交響楽団音楽監督に就任。これまでに音楽監督としてヒューストン交響楽団、カルガリー・フィルハーモニー管弦楽団、ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団、バスク国立管弦楽団、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団を率いる。欧米の名だたるオーケストラとの共演のほか、音楽祭や歌劇場での出演も多数。幅広いレパートリーと創造性溢れるプログラミングを得意とする。
©Singapore Symphony and Bryan van der Beek
フランス出身。わずか13歳でパリ国立高等音楽院に入学し、3年後にピアノ演奏で1等賞を獲得。1987年にダニエル・バレンボイム氏から招かれ、パリ管弦楽団と共演。以降、世界中のメジャーオーケストラと共演を重ねる。2002年以来、ドイツ・グラモフォンの専属アーティストとして活動。音楽家とは別に環境保護活動家としての顔も持ち合わせており、絶滅危惧種であるオオカミの保護活動に力を入れている。
©Mat Hennek
1956年に創立し、日本で唯一、自治体が設置し、運営に責任を持つオーケストラ。2015年、広上淳一とともに「第46回サントリー音楽賞」受賞。同年6月ヨーロッパ公演で成功を収めた。2017年「第37回音楽クリティック・クラブ賞」本賞等受賞。2023年4月から第14代常任指揮者に沖澤のどかが就任。2024年4月からは首席客演指揮者にヤン・ヴィレム・デ・フリーントが就任。文化芸術都市・京都にふさわしい「世界に誇れるオーケストラ」として更なる前進を図っている。
公式サイト©井上写真事務所 井上嘉和
桐朋学園在学中にN H K 交響楽団を指揮してデビュー。これまでに日本フィル正指揮者、大阪フィル専属指揮者、東京交響楽団常任指揮者、京都市交響楽団常任指揮者、群馬交響楽団音楽監督を歴任。現在東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団音楽監督、高崎芸術劇場芸術監督。大阪芸術大学教授、東邦音楽大学特任教授。京都市立芸術大学、洗足学園大学各客員教授。
©Rowland Kirishima
1998年生まれ。16歳でくまもと全国邦楽コンクールにて、史上最年少で優勝を果たす。セバスティアン・ヴァイグレ、井上道義、鈴木優人、秋山和慶、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団などと共演。「情熱大陸」「題名のない音楽会」「徹子の部屋」などに出演。箏奏者として初めてブルーノート東京でライブを開催。また、SUMMER SONICに異例の出演を果たしたことでも話題を集めた。
©Nippon Columbia