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AOW10月7日(木)セントラル愛知響指揮の角田鋼亮インタビュー


時間と空間を超えた東洋と西洋の音楽の旅!
西洋に範を求めた日本人作曲家と、
西洋音楽から自由に離れたペルト、ドビュッシー

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今年の「アジア オーケストラ ウィーク」4公演は図らずも「アジアとヨーロッパ」「東洋と西洋」という共通の構図を持つプログラムが並んだ。そのテーマ性が最も鮮明なのが最終日のセントラル愛知交響楽団。2019年から常任指揮者を務める角田鋼亮こだわりのプログラムだ。角田に聞いた。

聞き手・文:宮本明(音楽ライター)

>普段からコンサートの構成を考えるのが〝趣味〟なのだそう。

「思いついたプログラミングのアイディアをノートに書き留めています。もう何冊にもなりました。その中には、日本やアジアをテーマとしたプログラムの構想もいくつかありました」

角田が組んだのは、東洋と西洋を複眼的に対照するプログラム。

「コロナで渡航が難しい時期ですが、音楽であれば、東洋と西洋、時間と空間を超えて旅することができます。離れた地の音楽や、そこから影響を受けた作品を楽しんでいただけたらと思います。そしてまた、100年以上前にも素晴らしい日本人作曲家が存在していて、だからこそいまの私たちの音楽もあるのだという、日本の音楽文化の歴史も感じていただける機会になればと思っています」

10月7日(木)19時開演 東京オペラシティコンサートホール
セントラル愛知交響楽団
指揮:角田鋼亮 ヴァイオリン:辻 彩奈
山田耕筰/ 序曲ニ長調
貴志康一/ ヴァイオリン協奏曲
ペルト/ 東洋と西洋
ドビュッシー/ 交響詩「海」

「東洋」は、日本初の管弦楽曲と位置づけられている山田耕筰(1886~1965)の《序曲》(1912)、かたや日本初のヴァイオリン協奏曲とされる貴志康一(1909~1937)の《ヴァイオリン協奏曲》(1935)という、日本の西洋音楽の〝ルーツ〟の2作品。

「私がセントラル愛知の指揮者になって初めての定期演奏会で演奏したのが、山田耕筰の交響曲《かちどきと平和》でした。私も山田耕筰と同じ20代半ばにベルリンに留学していたので、勝手にシンパシーを感じていたこともあって取り上げました。そして今回、ぜひ日本の作品を取り上げてほしいというお話があった時に、〝セントラル─私─山田耕筰〟という線が、ぴんとつながったんですね。
《序曲》は作風としてはシューベルトが一番近いでしょうか。ニ長調の明るい響きで始まり、どのフレーズも音が上へ上へと向かっていくような、ポジティヴな雰囲気にあふれた作品です。たぶん自分が日本人として初めて管弦楽曲を書くのだとわかっていて、祝祭的な雰囲気に仕立て上げたのではないでしょうか。習作の趣きがありますが、気合いが入っていて、和音の使い方や管弦楽法に独創的な部分があります。爽快感と面白さの両方ある作品だと思います」

近年再評価の気運が高まる夭逝の天才・貴志康一の《ヴァイオリン協奏曲》もベルリンで書かれた作品だ。

「貴志康一は、日本の感情を西洋の人の心に寄せていくことが大事だと言っているのですが、逆にその作品は、西洋音楽を、彼の慣れ親しんだ日本の音楽に引き寄せている感じがあります。この《ヴァイオリン協奏曲》も、当初は和楽器を入れた編成で作曲しようとしていたみたいです。でもそれだとヨーロッパではなかなか演奏されないと判断して、結局、西洋の楽器だけでどうやって和の響き出せるかを、工夫して書いたようですね。笙とか箏とか龍笛といった日本の楽器を思わせる響きがあって、相当に和のテイストが強い作品です。
聴いていると、プロコフィエフとかハチャトゥリアンの音楽を感じさせる音列や音質があるようにも感じます。またヴァイオリンのカデンツァの部分は、メンデルスゾーンとかチャイコフスキーの協奏曲に似ていると思います。貴志康一はもともとヴァイオリニストだったので、やはり強い影響があったのでしょうね」

日本の洋楽黎明期と普及期、2世代ほど年齢の違う二人の作曲家。西洋音楽と対峙するスタンスも異なるのが興味深いという。

「二人ともベルリンに滞在して、彼らより前の西洋音楽に影響を受けているんですけれども、スタンスがちょっと違うんです。
山田耕筰のほうは、とにかく西洋の音楽に近づきたいという気持ちでヨーロッパに行ったと思うんですね。最初はベートーヴェンとかシューベルト、メンデルスゾーンに傾倒し、だんだんR.シュトラウスやストラヴィンスキーのほうへ向いていった。〝まねぶ〟という言葉がありますよね。〝学ぶ〟の原型だと思うんですけど、真似ることによって一度自分の言語にして、それから自分のオリジナルの何かを発しようという考え方だったと思うんです。
一方で貴志康一は、西洋の音楽の形を借りて、その中に日本のものをどう入れるかという視点で作曲に取り組んでいたと思います。それまでの音楽にない様なとんがった革新的なこともやっているんだけれども、それがけっして理解できないようなものではなく、すっと心に入ってきて親近感を感じるのが不思議ですね。この協奏曲も、一聴して気に入っていただけるのではないでしょうか。
私自身も、彼らのスタンスを両方とも大事にしたいと思いながら留学していたんです。西洋の音楽文化に近づきつつ、そこにないものも探そうとしました。」

協奏曲の独奏には辻彩奈を迎える。角田とは何度も共演を重ねて気心知れた仲。

「初めて共演したのは彼女がまだ中学校3年生のときでした。曲は《ツィゴイネルワイゼン》。その頃からもう、とても情熱的で力強くて。年の離れた大人のオーケストラのメンバーたちを引き込む圧倒的な演奏でした。
彼女の素晴らしさのひとつとして挙げられるのが、どう弾きたいかを的確に言葉にできるということだと思います。こちらの質問にも、すぐにストレートな答えが返ってきます。それだけ、ひとつひとつの音の意味を考えて準備されているのだと思います。ただ、それは表現を固めてしまうということではなくて、オーケストラとのリハーサルを経て、そこからさらに昇華させる力をもお持ちで。本当に尊敬すべきヴァイオリニストですね。つねにクリエイティヴなことをやりたいという意欲に溢れた方なので、この作品にも一発で興味を持ってくださったようです。とても乗り気で、きっと使命感をも持って弾いてくださると思います」

プログラム後半は「西洋」。テーマずばりの曲名のアルヴォ・ペルトの《東洋と西洋》(弦楽オーケストラ/2000)と、初版スコアの表紙絵に葛飾北斎の浮世絵『神奈川沖浪裏』が使われたことでも有名なドビュッシーの《海》(1905)を選んだ。

「ペルトも1980年代から長くベルリンに住んでいて、私も何度か演奏会場で見かけたことがあります。ベルリンでは彼の作品はよく取り上げられますね。この《東洋と西洋》も、ベルリン芸術祭のために書かれた作品です。
彼の作品はつねに瞑想的で、静かだけれど、聴いているうちに今まで体験したことのない世界に誘われるような気がします。この作品の背景には宗教的なバックグラウンドがあって、自筆譜にはニカイア信条(クレド)のテキストが教会スラヴ語で書き込まれています。西方教会でも東方教会でも用いられている古い教理です。作曲の背景には、東も西もなく、たとえばさまざまな宗教も、ひとつに融合できうる形を持っているというマインドがあったんじゃないかと。これは推測に過ぎませんが。
小さいモティーフの繰り返しによって深いところに入っていくペルトの作品に対して、ドビュッシーの《海》では広がりを感じさせますね。
ドビュッシーの《海》について、個人的には『ジャポニズムが見て取れる』とは思わないのですが、そこかしこに東洋的な五音音階ふうの旋律や不規則的なリズムがあったり、それまでの定石の和声を避けたりとか、それまでの西洋音楽にはないものを感じますね」

山田耕筰や貴志康一が「西洋」に接近したのと対照的に、ペルトやドビュッシーは「西洋」から離れたのだと角田。

「ペルトもドビュッシーも、私たちが知っているいわゆる西洋音楽から大きく離れようとしたんだと思います。西洋音楽の流れの中で作曲していても新しい表現は生まれないと考えて、伝統的な音楽表現に則るのとは別の方向を探したのではないでしょうか。ドビュッシーの場合は和声法を見直し、それまで禁じられていたことをやっていったり。ペルトの場合は西洋音楽が形作られる前の時代に戻って、もっと人の心の深い、根源的なところに入っていったり。
そういう視点で見ると、今回のプログラムの4つの作品は、西洋音楽に対するアプローチがそれぞれ違います。西洋音楽に近づこうとした山田耕筰。そこに自分の個性を入れようとした貴志康一。もっと前の時代に戻ろうとしたペルト。新しい素材を求めて東洋の影響も受けたドビュッシー。そんな違いを味わっていただけると思います」

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角田鋼亮はセントラル愛知交響楽団の地元・名古屋の出身。ただし名古屋の病院で生まれたものの、父親の転勤で名古屋へ戻る小学校2年生までは東京・荻窪で育ち、大学も東京だったので、暮らした期間を比べるとじつは東京に住んだ時期のほうが長いのだそう。

「セントラル愛知交響楽団は1983年、私よりも後に生まれました。2管編成の中規模のオーケストラ。シューベルトの交響曲《グレート》を演奏するのがちょうど良いくらいの編成です。
よく演奏される作品でも出来たての新曲でも、みんな足元にスコアを置いて、真摯に練習に取り組むようなオーケストラです。とくに今年度は技術的なことから運営面のことまで盛んに意見交換しており、より魅力的な活動をするためにどうしたら良いかと意識を高めています。みなさん人格者で、家族的であたたかいのですが、そういったものがそのまま音にも反映されていると思います。小気味好いアンサンブルも得意です。
年間の定期演奏会は7回で、私がそのうちの4回を担当しています。プログラムの構成には非常にこだわっていまして、各回テーマ性を持つのは当たり前なのですが、それが1年限りではなく、次年度以降にも繋がっていくようなラインナップで取り組んでいます。3年前にバッハのプログラムから始めて少しずつ編成を大きくしてきて、いよいよ来年は声楽が入ってきます。そういったコンセプトはオーケストラのメンバーだけでなく、ありがたいことにお客様もわかってくださっていて、点ではなく面でわれわれに接してくださっているような気がします。来年度以降も是非ご期待ください」

「アジア オーケストラ ウィーク」3日目の東京フィルを指揮する三ツ橋敬子と角田は芸大指揮科の同級生。しかも彼女とは子供の頃から音楽教室の全国大会で顔見知りだったのだそうで、本人曰く「くされ縁です」。指揮科の同期は3人で、もう一人は富平恭平。学生時代からともに学び、しのぎを削った彼らの世代が、まさにいま、明日の日本の指揮界を担っている。

その渾身のプログラム。聴き逃せない。
10月7日(木)19時開演 東京オペラシティコンサートホール
https://www.orchestra.or.jp/aow2021/