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AOW2021 YouTubeにて配信中!

文:林 昌英(音楽ライター)
 AOW2021 YouTubeにて配信中!   文:林 昌英(音楽ライター) | オケ連ニュース | 公益社団法人 日本オーケストラ連盟

今年10月に開催された「文化庁芸術祭主催公演 アジア オーケストラ ウィーク」、東京で4夜にわたり披露された公演がYouTubeにてダイジェストでお聴きいただけるようになりました!

https://youtu.be/NWhsZO2mB5E

そこで、「日本オーケストラ連盟ニュース vol.106 38ORCHESTRAS」よりアジア オーケストラ ウィーク2021の記事をお届けします。
動画とあわせて、ぜひご覧ください!

アジア オーケストラ ウィーク2021

 2001年に開始された「アジア オーケストラウィーク」(AOW)は、アジア太平洋地域の各国のオーケストラと作曲家、そして楽曲を日本で体験することのできる、他に類を見ない壮大な企画である。私たち日本在住の聴衆にとっては貴重な機会であり、各国の楽団にとっては日本ツアーの実現が経験の蓄積になる。双方にとって文化交流としての価値は大きい。

 2019年まで途切れることなく続いてきたAOWだが、昨2020年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止を余儀なくされた。しかし、2021年は、海外楽団の渡航は叶わなかったものの、代わりに国内の4楽団が登場する形でAOWを再開することができた。これまでもAOWには国内楽団が登場していたことで趣旨は外れないし、まだイベント実施が不安定だった時期に意義を損ねずに実現できたことは、とにかく幸甚だった。

 そして、10月上旬に東京オペラシティコンサートホールで開かれたAOWの4公演は、“なんとか開催した”という次元をはるかに超えた、有意義かつ顕著な成果を得られた演奏会になったことは特筆しておきたい。各回ともアジア近現代の稀少な楽曲とヨーロッパの有名曲が組み合わされたプログラムが用意され、各楽団と指揮者の特質が存分に発揮された、音楽の喜びにあふれる熱演ぞろいとなったのである。殊に心に刻まれる体験となったのは、日本を含めたアジアの作品、それも楽器や声とオーケストラが協奏する“合わせもの”の作品群だった。

10月4日(月)大阪フィルハーモニー交響楽団

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大阪フィルハーモニー交響楽団

指揮/秋山和慶 ピアノ/児玉 桃
●グエン・メイツィ・リン:「穏やかな風」オーケストラのための
●細川俊夫:月夜の蓮 
 ーモーツァルトへのオマージュ̶ 
 ピアノとオーケストラのための
●ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 作品67「 運命」

 初日は大阪フィルが登場。秋山和慶の指揮で、最初にベトナムのグエン・メイツィ・リンの心地よい小品「穏やかな風」、続いて児玉桃のピアノとの共演で細川俊夫の「月夜の蓮」が演奏された。何かを希求し続けるような細川の音楽と、厳しくも美しい児玉のピアノの音色が深く印象に残った。後半はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。

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指揮・秋山和慶さん、ピアノ・児玉桃さん

10月5日(火)読売日本交響楽団

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読売日本交響楽団

指揮/藤岡幸夫 ヴァイオリン/成田達輝
●イサン・ユン:Bara(1960)  
●陳剛&何占豪:ヴァイオリン協奏曲 「梁山伯と祝英台」
●ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」

 2日目の読響は、韓国=ドイツのイサン・ユンの現代的で峻厳な「Bara」、中国の陳鋼&何占豪のヴァイオリン協奏曲「梁山伯と祝英台」を演奏。後者は20世紀中国の生んだ屈指の人気作品で、楽しくも胸に迫る名旋律にあふれる現代的で峻厳な「Bara」、中国の陳鋼&何占豪のヴァイオリン協奏曲「梁山伯と祝英台」を演奏。後者は20世紀中国の生んだ屈指の人気作品で、楽しくも胸に迫る名律にあふれる逸品。こういう音楽をこよなく愛する、指揮の藤岡幸夫とヴァイオリン独奏の成田達輝が胸のすくような快演を聴かせて、大いに会場を沸かせた。後半はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。

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指揮・藤岡幸夫さん、ヴァイオリン・成田達輝さん

10月6日(水)東京フィルハーモニー交響楽団

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東京フィルハーモニー交響楽団

指揮/三ツ橋敬子 語り・歌/大山大輔
●冨田 勲:「新・ジャングル大帝 2009年」
●ドビュッシー:月の光
●ストラヴィンスキー:「火の鳥」(1919版)
●冨田 勲:「ドクター・コッペリウス」Rise of The Planet 9より

 3日目の東京フィルは、前半に冨田勲の交響詩「新・ジャングル大帝 2009年」を取り上げた。昭和を代表する漫画家、手塚治虫のアニメ作品の音楽を数多く担当したのが冨田勲で、特によく知られているのが「ジャングル大帝」。今回の版は、かつてこども用に作っていた複数のオーケストラ編曲を、2009年に大きく詩「新・ジャングル大帝 2009年」を取り上げた。昭和を代表する漫画家、手塚治虫のアニメ作品の音楽を数多く担当したのが冨田勲で、特によく知られているのが「ジャングル大帝」。今回の版は、かつてこども用に作っていた複数のオーケストラ編を、2009年に大きくまとめ直したもの。語りと歌付きで1時間近い大作だが、オペラを得意とする東京フィルと指揮の三ツ橋敬子がすばらしい演奏を実現し、語りの大山大輔が冒頭と結尾ではテーマソングを雄大に歌い上げた。楽団員個々人の思いまで感じられるような、パワーと情感に満ちた大熱演が聴衆の興奮を誘い、感銘を与えたのである。後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」組曲(1919年版)、冨田勲の遺作「ドクター・コッペリウス」結尾の音楽ほか。

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指揮・三ツ橋敬子さん、語りと歌・大山大輔さん

10月7日(木)セントラル愛知交響楽団

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セントラル愛知交響楽団

指揮/角田鋼亮 ヴァイオリン/辻 彩奈
●山田耕筰:序曲ニ長調
●貴志康一:ヴァイオリン協奏曲
●ペルト:東洋と西洋  
●ドビュッシー:交響詩「海」

 最終日はセントラル愛知響が登場。角田鋼亮の指揮で、山田耕筰の爽やかな序曲ニ長調に続き、20世紀前半に若くして活躍した貴志康一のヴァイオリン協奏曲。貴志の代表作ながら、40分ほどの大作で、演奏機会は稀少だった。それが体験できるだけでも嬉しい機会だが、独奏の辻彩奈は暗譜で臨み、歌心と熱気あふれる見事な演奏で、本作の価値を証明したのである。後半はペルトの「東洋と西洋」とドビュッシーの交響詩「海」。プログラム全体も、西洋の機知と日本の情緒の邂逅を浮かび上がらせる、考え抜かれたものだった。

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指揮・角田鋼亮さん、ヴァイオリン・辻 彩奈さん

 最初にも記したように、AOWの果たしてきた文化的意義の大きさは計り知れない。これまで招聘した楽団の国名を挙げると、楽団数の多い中国、韓国をはじめ、東南アジアからはタイ、フィリピン、シンガポール、ベトナム、マレーシア、インドネシア、他にもモンゴル、インド、スリランカ、トルコ、さらにはオセアニアのオーストラリア、ニュージーランド。一望するだけでも国の数の多さ、対象地域の広さがわかるだろう。これほどの規模感のオーケストライベントは、世界でも類を見ないものである。

 AOW20年間の大きな節目が、図らずも象徴的なタイミングに重なってきたことも指摘しておきたい。10周年に当たる2011年は東日本大震災。直後の混乱と自粛を経て同年のAOWは実現したが、そこで招聘した楽団のひとつが、ニュージーランドのクライストチャーチ交響楽団。同年2月22日に同国で大地震が発生、殊に被害が大きかった都市がクライストチャーチだった。近い時期に大震災を体験した両国が、AOWの場で連帯を示したのである。そして、世界的な新型コロナウイルスによる影響で2020年は休止したものの、20周年に当たる2021年は国内楽団による好企画という形で実現。自由なイベント開催がまだ難しかった夏の時期での開催発表は、明るい話題として楽壇の注目を集めた。

 それぞれの災厄は辛く不幸なものであり、文化活動は多大な(ときに理不尽なほどの)悪影響を受けた。しかしながら、起きてしまった不幸を乗り越えるときに、有意義かつ力のあるメッセージを発することができるのもまた、文化芸術のもつ力である。AOWの節目の年がそういったタイミングになったことで、AOWがもつ意義と底力を象徴することになったとは言えるだろう。

 日本オーケストラ連盟には、「未来へつなぐハーモニー」という標語のためにも、AOWが世界屈指の壮大な規模と広がり、そして限りない可能性をもつ特別な文化事業であるという意義を、もっと世の中に広く伝えていってほしい。実のところ、これまで登場したアジア楽団の多くは、AOWでなければ接する可能性はほとんどなかったはずで、それら一つひとつの公演が、真に無二の体験となっているのである。AOWをはじめとした同連盟による重要な企画の数々が、今後も継続と発展をしていくことを期待してやまない。

写真:藤本史昭

主催:文化庁芸術祭執行委員会
共催:日本経済新聞社
特別協賛:新菱冷熱工業株式会社
協力:東京オペラシティコンサートホール
制作:日本オーケストラ連盟

「日本オーケストラ連盟ニュース vol.106 38 ORCHESTRAS」より