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イギリスのオーケストラの公的支援
~バーミンガム市交響楽団の来日に思う~ 

 イギリスのオーケストラの公的支援~バーミンガム市交響楽団の来日に思う~     | オケ連ニュース | 公益社団法人 日本オーケストラ連盟

 この6月に、バーミンガム市交響楽団が日本を代表する指揮者である山田和樹さんを首席指揮者として伴い、日本公演を果たした。イギリスのオーケストラと言えば、まずロンドンのオーケストラを思い浮かべるだろうか。このバーミンガムのオーケストラは地方都市(といってもロンドンに次ぐ第2の都市、100 万人を超えているのはこの 2都市のみ)のオーケストラであるが、多くのオーケストラに興味がある人々にとっては、目が離せないオーケストラである。その理由はサイモン・ラトルを擁して世界的なオーケストラとして知名度を得たこと、それ以降も、S. オラモ、A. ネルソンス、M.グラジニーテ=ティーラ、山田和樹と常に世界の注目を集める指揮者を招き活動を続けているからである。そのオーケストラがどのような運営状況にあるのか、少し調べてみた。もとになっている資料はオーケストラの発行しているアニュアル・レポートおよび国の企業登記局が発表しているものである。

 2021 年度のバーミンガム市交響楽団の収入構造を図 1-a に示す。(以下すべて1£=180 円として)全収入は約 16 億円。その内訳をると全収入の 28%は演奏収入。次に民間からの支援とアーツ・カウンシル・イングランド(日本で言えば文化庁・日本芸術文化振興会)からの支援がほぼ同じ割合の 26%、バーミンガム市からの支援が 6%、コロナ禍における雇用の維持、その他の助成金が 12%となっている。バーミンガム市のオーケストラと言っても、自治体からの支援より、国からの支援が主であることが分かる。全体の収入(コロナ禍における支援を除いて)の約 37%を国・自治体からの支援で、約 30%を民間からの支援でまかなっていて、演奏活動の収入は約32%となっている。大雑把ではあるがほぼ均等な 3 つの大きな柱で成り立っていると言える。
 比較のために、日本のオーケストラの代表として東京交響楽団(自治体から大きな支援を受けていない自主運営オケ)の収入構造を図1-bに示す。全体の予算規模はバーミンガム市響の 75%程度ではあるものの、明らかに自らの演奏収入のバランスが大きい。金額で見ても倍以上の金額を自らの演奏で稼いでいる。近年日本のオーケストラも民間からの支援を受ける活動は活発になってきており、以前に比べればかなり大きくなってきているものの、その金額もバーミンガム市響に比べるとまだ小さい。東京交響楽団を含む日本のオーケストラもこの 3 つの柱のバランスを少しでも整えていく必要はあるであろう。東京のように演奏の場が多くある事はオーケストラにとってありがたいが、芸術としての演奏の水準を保つためには 365日という限られた時間の中では限界はある。(現段階では配信等での収入はまだ見込むことは難しい)

 日本のオーケストラの活動において、芸術団体としてその根幹をなす活動である定 期演奏会などに国が助成している「我が国を代表する芸術団体等支援」、昨年まで は「舞台芸術創造活動活性化事業」と いう名の制度がある。近年、予算的には一定の金額(創造団体支援全体で 32 億から33 億円)が保たれてきたが、令和 5 年 度には 10%程度減少した。また対象となる団体数も増えてきているため、各団体においては令和 6 年度以降更なる減額の可能性に不安を抱いている。この点についても以下、図 2 にバーミンガム市響と東京交響楽団の 2004 年度以降の国からの支援(前述のもの)の額とその推移を示す。

 イギリスも経済的には苦しいと言われて はいるものの、一定した金額が保持されてきている。ただし、日本のオーケストラに比べるとその金額は 4 倍程度。近年、日本では、国からの支援は一定の期間とし、自律への道を探るべきではないかという問いかけ が行政からも聞かれるが、果たしてそうなのか。一定の公的な支援は芸術文化活動のためには必要と考えるが。3 つの柱のバラ ンスは今のままでよいとは考えてはいない。 ただし、バランスは人口集中の激しい国においては地域によって異なる。そのための努力は続けなければならない。芸術団体にとっての理想と、国にとっての考え方(これは国民の考え方に基づくもの)は、時代によって、地域によって異なると思うが、過去から現代そして未来に受け継ぐこの素晴らしい文化芸術の根は絶やしてはならず、そのためには時代の要求に応じた柔軟な運 営と、確固たる継承すべきものを守るとい うバランスあるいは何を選ぶかを常に考えつつ、模索していく必要があるであろう。

2023年7月31日発行
「日本オーケストラ連盟ニュース vol.111 40 ORCHESTRAS」より