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新聞記者の目

コロナ禍の逆境で
プロオーケストラの存在意義
~道民と札幌交響楽団の連帯の復活に期待~

山本 哲朗(北海道新聞社文化部 編集委員)
新聞記者の目 コロナ禍の逆境でプロオーケストラの存在意義~道民と札幌交響楽団の連帯の復活に期待~   山本 哲朗(北海道新聞社文化部 編集委員) | オケ連ニュース | 公益社団法人 日本オーケストラ連盟

 北海道には「札響(サッキョウ)」の愛称で親しまれる地域唯一のプロオーケストラ、公益財団法人札幌交響楽団がある。1961年7月に群馬、京都に続く3番目の地方オケとして発足。新型コロナウイルス感染が収まらぬ中、2021年に創立60周年の「還暦」を迎えた。コロナ禍で公演の中止・延期が相次ぐなど厳しい状況に直面したが、試練が道民と楽団に連帯の橋を架け、音楽の力とプロオケの意義を考えるきっかけとなった。(敬称略、会計数字は見込み)

 カーテンコールがやまず、声に出さない「歓喜」の思いが札幌コンサートホール・Kitaraを満たした。2021年12月11、12の両日、札響が主催公演「札響の第9」を3年ぶりに〝ホームグラウンド〟Kitaraで開いた時のことだ。

 札響と気心の知れた友情客演指揮者広上淳一の登壇で12日・日曜のマチネーは、コロナ禍以後、50%の収容制限を解除した札響の通常販売で初めて「完売」。11日も堅調な入りで札響ファンのSNSに「ありがとう。いつもの第9」と日常が戻りつつあることへ感謝の声が上がった。

 コロナ禍で多くの障害に直面した札響。外国人入国の原則禁止で、ファン待望の指揮者やソリストの多くが登場できなかった。2020年8月の演奏会再開から2022年2月の東京公演まで外国人が出る演奏会は15回企画されたうち14回が代役に。音楽家は文化庁が楽団などの申請を受けて法務省や外務省、厚生労働省と協議する。許可されれば入国、隔離する段取りだが、間に合わないことが多く、関係者はやきもき。「ここに来られないシュトイデがかわいそう。本当にコロナのバカヤロー」。2021年6月の第6回新・定期。「弾き振り」を予定したウィーン・フィルの第1コンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデの代役、名誉音楽監督尾高忠明が壇上で訴えた。

 道内は「緊急事態宣言」が3度発令されたが、その間、クラシック公演は主催者や施設の判断で開催可否が分かれた。宣言下でも札幌は「特定措置区域」となり「上限5000人かつ収容率50%以内」なら感染防止策を徹底して演奏会を開ける。しかし、公的施設は原則休館したため、「定員50%以内」で開く公演がある一方、公的施設休館に合わせて中止・延期する公演もあった。

 札幌市有施設のKitaraでは2021年9月11、12の両日、札響創立60周年記念定期演奏会にスイス人の首席指揮者マティアス・バーメルトが1年7カ月ぶりに来日して登場。両日とも50%制限下で完売、各1000人が「交響曲の不朽の名作」(バーメルト)のブルックナー第7番など「還暦」オケの円熟の響きを楽しんだ。一方、Kit araが自主事業として9月18日、小ホールで予定した、道内に拠点を置く世界的バイオリニスト安永徹らの室内楽公演を延期した。

 Kit araは「市施設であり休館し感染防止を優先した」。一方、公的施設であっても延期が難しい事業は例外となるため、札響は「周年の節目。バーメルトもやっと来日したので延期は難しい」と定期を開いた。道内唯一のプロオケとして「音楽を届ける役割」も掲げた。検温、消毒など感染防止策を徹底、開催した公演は多くの観客を癒やした。高齢化などでファン減少に直面していたクラシック音楽が再評価された。

 コロナ禍の札響は、2020年度だけで75公演を中止・延期、損失は年間収入の3割、2億7000万円に達した。札響自ら支援金を集めるクラウドファンディング(CF)で2667万円、それ以外の一般寄付で3956万円と独自に約7300万円を集めた。俳優大泉洋らが所属する札幌の芸能事務所クリエイティブオフィスキューも札響支援のCFを展開、2000万円を寄せた。「札響に元気がないと道民も元気がない。同じエンターテインメントとして支え合い北海道を盛り上げたい」と同社。

 2021年度予算案も中止や延期で2億340万円の赤字となるが、2020年度決算が寄付金や国の様々な支援策などで2億580万円の黒字となり、これを繰り越して赤字を埋める会計処理が国に承認され、コロナ禍を乗り切れるという。多賀登事務局長は「札響が道民に支えられていることを実感した」と喜びをかみしめる。

 札響を愛した世界的な作曲家武満徹は生前、「(道内)唯一のシンフォニー・オーケストラだという、人びとの誇りによって支えられた、その得難い連帯感が、札響の表情を活き活きとしたものにしている」と書いた。道民と札響の連帯の復活を期待したい。

2022年3月31日発行
「日本オーケストラ連盟ニュース vol.107 38 ORCHESTRAS」より